伊吹山でのアルパイン・クライミングの是非考 


■入山禁止直後の遭難発生

 令和5年(2023年)7月12日、数十分の短時間集中的降雨により正面登山道の斜面が大規模な土砂崩れを起こしました。その直後から米原市は米原市側からの登山を禁止しました。現在「季節やルートにかかわらず、米原市側の麓からの登山はできません。冬山登山もできません。」とアナウンスされています。

 しかし、入山禁止となったにもかかわらず、その直後に登山を強行された人が、下山途中に行方不明となりました。まだ見つかっていないようです。



■バリエーション・ルートでの事故の発生
 その後、正面登山道からの入山はほとんどなくなりましたが、通常の上野からではなく、弥高や上平寺から入山し登頂する人が、少ないながらも絶えません。



 令和6年(2024年)2月24日には、弥高・上平寺から正面登山道の5合目に合流する正規登山道(正規バリエーション・ルート)ではなく、おそらく、上平寺から川戸谷(祖父谷)を遡行し、阿弥陀ヶ崩れを経て登頂するか、もしくは上平寺尾根、弥高尾根を利用し、弥高山通過後(正規登山道はここを通過後まもなくして、正面の5合目へトラバースする)に、登山道のない中尾根を直登する非正規ルートにより登頂を目指す5人グループが不幸にして落石に遭い、1名がケガを負い1名が亡くなられました。




■伊吹山の「アルパイン・クライミング・ルート」とは?
 伊吹山には山仕事や峠越えのための古道がいくつかあり、上平寺から川戸谷沿いに岐阜県側笹又へ抜ける道もありました(「伊吹山案内」:草川啓三:ナカニシヤ出版)。また、中尾根とドライブウェイのある南東尾根の間の急斜面の「阿弥陀ヶ崩れ」にも中尾根からトラバースする道があったと思われます(地理院地図に破線がある)。しかし、これらルートも現在は使われていません。
 一方で、正規登山道を使わず「アルパイン・クライミング」と称して中尾根や阿弥陀ヶ崩れを経由(アタック)して登頂を目指す登山者がかねてから存在していたようで、ネット上でもいくつか記録がみられます。




■ニホンジカによる生態系破壊による表土流出
 伊吹山では、10年以上前からニホンジカが急増し、下層植生の破壊が進みました。特に令和2年以降では平成26年から試みられているシカ侵入防止柵(9合目より上部の頂上台地を西、中央、東の3エリアに分けて囲う)の内側以外ではシカの不嗜好植物を除いて食べつくされ、植物による表土の保持力がなくなり、雨による浸食や表土の流出、それに伴う落石が起こるようになりました。もともと薄い表土であったものが、それが流され、岩が剥き出しになり落石が起こりやすくなっています。




■ボランティア団体による登山道補修
 これに対し「霊峰伊吹山の会」などのボランティア団体による登山道の補修がされてきましたが、イタチごっこ状態で危険な状態が深刻化しています。
 そして、令和5年7月12日の土砂崩れを受け、米原市は滋賀県側からの「登山禁止」としました。




■米原市が登山禁止と強く求めている理由(推測)
 本来、登山自体はあくまで自己責任で土地の管理者が黙認していれば往来自由であるべきものですが、今回「登山自粛」ではなく強い表現で「登山禁止」とした根拠は何でしょうか。法的根拠はあるのでしょうか。少し考察します。
 伊吹山の土地のほとんどが民地であり(米原市HP)、おそらく地権者(例えばその集まりである自治会)との合意で入山禁止しているとすれば、不法侵入として強制力が発生し得るものと思われます(違法の認識がなければ立件は難しいと思われますが)。
 また、国定公園管理者である県が立ち入禁止の方針であれば強く要請することもできると考えられます。
 これらについては、詳細を確認する必要がありますが、おそらく大きくは外れていないと思います。
 米原市が「登山禁止」を強く言っている中、不幸にして遭難した場合に責任を問われ、責任が明らかな場合、(可能性は低いと思われますが)最悪の場合救助費を請求されることも想定されます。
 そもそも国定公園内かつ地権者が存在するなかで、ボルトやピトンを打ち込みルート開拓することがどの程度まで許されるのかの疑問があります。マナーの観点からもどうでしょうか。




■我々に出来ること
 令和6年3月30日現在、米原市HPによると今年の4月の登山道復旧に向けて土砂流出防止、登山道修復について検討されていますが、そのとおりになるかは未知数です。少なくとも登山道復旧までは一般の立ち入りが禁止されます。
 我々にできることは、登山道復旧まで米原側のふもとからの登山を控え、米原市や県等関係機関やボランティア団体の取り組みを見守り、あるいは入山協力金(ドライブウェイからの入山)や寄付金等の支援をすることです。



■伊吹山の生態系回復のために
 数年前に2年連続で登山道西側の尾根(鉱山との境界尾根)に、草や藪がシカに食べられて歩きやすくなったことで、ドライブウェイを利用したイヌワシ目的のカメラマンが規制線を越えて入り込み、長時間居座っておられました。そこはイヌワシの狩場の一部であり、伊吹山に2羽しかいないイヌワシにとって脅威になると思い記事を書きました(イヌワシが危ない)。
 その後、イヌワシカメラマンの間でも問題視されたようで、ありがたいことに、そのような方は見なくなりました。その記事では、このような人たちを問題視する一方で、「登山者はイヌワシと共存してき」たと書きました。
 その観点からは、アルパイン・クライミング・ルートと称される中尾根から東側、阿弥陀ヶ崩れを含む伊吹北尾根に続く斜面はイヌワシの狩場や野生動物の棲息場所です。アルパイン・クライミングと称して登る人も、カメラマンとは目的は違いますが、同じことだと思います。頂上の遊歩道から外に出るか、外から頂上に至るかの違いだけです。
 ネットで確認出来る写真(ヤマップの記録など)には、阿弥陀ヶ崩れを越えて登頂し獣害保護柵をバックに三角点で記念写真を撮られた写真などがアップされていますが、どうやってシカ侵入防止柵(あるいはユカエル)を越えたのでしょうか。執拗に侵入してくるシカと同じようにネットを持ち上げて、または、シカが囓って開けたネットの穴を通り抜けて、もしくは、壊れかけたユカエルを越えて登頂されたのでしょうか?自然再生協議会が守ろうとしている、ネット内の植物をシカやイノシシと同じように踏んで入ってこられたのでしょうか? (ただし、晩秋から初秋はネットが下ろされている。積雪時は植物に影響をほとんど与えない)







 また、阿弥陀ヶ崩れを含め広い範囲が自然公園法における国定公園第二種特別地域に指定されています(頂上台地は特別保護地区)。正規ルートのないそのような場所に立ち入ることは、どうでしょうか。あるいは、確実にシカを捕獲し少しでも植物を保全しようとしている場所を踏みつける行為はどうでしょうか。



 非正規ルートを踏破する、または開拓する楽しみはあって然るべきものですが、生態系の崩壊過程にあり、回復のために地道かつ莫大な費用と努力が払われている伊吹山でだけはやめていただきたいというのが個人的な思いであり、切にお願いしたいことです。

(2024年3月20日記 適宜修正)



【2024年3月21日追記】
■米原市に問い合わせしてみました。 
 メールフォームにより正規登山道以外に立ち入ることについて、お考えを聞いたところ米原市自治環境課のご担当者様から回答がありました。
 このなかで「土砂崩れ以前から自然再生協議会がローカルルールを定めており、ドライブウェイでガードレールから外への立ち入りや、歩道外への立ち入りは厳禁とされてきましたが、弥高・上平寺等のバリエーションルートまで想定したものではありません。」とのことでした。ただし、土砂崩れ以降の登山禁止はやはり「地権者が立ち入り禁止とされている」とのことでした。
 ここでいうバリエーションルートとは、正規の登山道を指すのか、アルパインルートまでも指すのかわかりませんが、ローカルルールではどちらも想定されていないということだと解釈できます。いずれにしても、現在の入山禁止は地権者の意向でもあり、守る必要があります。
 ローカルルールの大きな目的は、植生保護、生態系保護であり、想定されていないルートであっても同様の観点から、伊吹山に限っては、アルパイン・クライミングなど正規登山道でないルートで植生にダメージを与える行為、イヌワシをはじめとする野生動物の生育環境にインパクトを与える行為はやめていただくようお願いします。




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